クリーニング業者から見たポリウレタン弾性糸使用のストレッチ製品事故について
ゴルフスラックス(ジーンズ)の収縮事故 *写真や文の無断転載はお断りします。再利用の際は、以下までお問い合わせください. makoto@ajigawa.jp  
事故の状況
 石油系ドライクリーニングおよびタンブラー乾燥を行うと、左下の写真のようにシボ立ちが起こり、横方向に著しく収縮した(12.6〜14.0%)。

組成:麻75%、綿20%、ポリウレタン5%

取り扱い絵表示
   
タンブラー乾燥禁止
オリジナル生地

当該クリーニング業者の洗浄条件
ドライ機:ニップレ13kg(JIMS 11kg)
負荷:約7kgで洗浄
工程:予洗オーバーフロー3分、本洗バッチ8分、濯ぎアップダウン5分、脱液5分
液温:32度、ソープ濃度0.35%(松井化学ダブルクリーン=アニオン)
ソープ濃度管理:マクセルのソープコントローラー
乾燥機:
蒸気式乾燥機 ニップレ15kg 負荷約7kg
乾燥時間:30分 50℃ 生蒸気1分 クールダウン15分
水分管理方法:
毎朝、始業時に乾燥したタオルを洗浄し、水抜きを行っている
石油系ドライ+自然乾燥(検査機関による再現テスト)

検査機関による商業ドライクリーニング試験
タテー0.1%、ヨコー2.2%(303当て布仕上げ後)
当て布仕上げ後の状態。やや縦方向にシボが発生していることがうかがえるが、仕上げ前はもう少しシボ立ちがあったと思われる。
家庭用洗濯機による水洗(検査機関による再現テスト)

103法 寸法変化率タテ−3.4% ヨコ−15.2%

洗濯機で機械力をかけながら洗うと激しくシボ立ちが起こり、横方向に強い収縮が見られる。
再度検査機関による再現テストを行うと、、、。
現物サイズ(cm) 洗濯1回(103法 吊り干し) 洗濯1回(103法 タンブラー乾燥)
洗濯後(cm) 寸法変化(cm) 寸法変化率(%) 洗濯後(cm) 寸法変化(cm) 寸法変化率(%)
パンツ丈 111.8 117.5 5.7 5.1 115.0 3.2 2.9
W 巾 38.5 38.5 0.0 0.0 38.4 −0.1 −0.3
H 巾 57.4 47.3 −10.1 −17.6 40.0 ー17.4 ー30.3
ワタリ巾 34.2 31.3 ー2.9 ー8.5 26.7 ー7.5 ー21.9
股上巾 29.3 29.5 0.2 0.7 29.6 0.3 1.0
股 下 84.2 91.0 6.8 8.1 88.9 4.7 5.6

 上表のように、横方向には大きな収縮が見られ、逆に縦方向(特に股下)には8.1%もの伸びが認められる。この事から、生地段階で横方向に大きなテンションがかかり、ひじょうに大きなひずみを残したまま縫製・製品化されたのではないかと推測する。また、タンブラー乾燥を行うとさらに激しく(30.3%)収縮することが解る。特に横方向の激しいシボ立ちは、ポリウレタン弾性糸によるものと思われ、糸の撚り条件などの要因も絡み、寸法安定性に乏しい、ひじょうに不安定な生地であると推測する。麻や綿の単なる膨潤収縮なら、ここまで大きな収縮や激しいシボ立ちは考えにくい。

 一般に、クリーニング工程において、ポリウレタン弾性糸使いの生地が収縮するのは「湿熱(プレス時の高温スチーム)」が主な原因といわれているが、本件のように(仕上げ前の段階でここまで収縮していることから)糸や生地の織り組織の問題などとの複合的な要因で「大きなひずみを持ったまま縫製・製品化されている」事が原因というケースも多々あると推測する。

 また、当該クリーニング業者は石油系ドライクリーニングでこのような状態になったと主張しているが、当該アパレル側の意見は、検査機関の再現テストから、ドライクリーニング中の過剰な水分が原因、またはタンブラー乾燥が原因ではないか、さらに暗に「水洗いを行ったのではないか」という疑いを持っているようである。

 しかし、本品は夏物のゴルフウェアである。当然汗を大量に付着させるので、麻、綿素材であることから「最低でも手洗いに耐える」商品であるべきである。水を使ったクリーニングが出来ないのなら、販売時に汗は除去することが出来ない事を説明して販売する必要があろう。何故なら、一般消費者は「ドライクリーニングでは、ほとんど汗を除去できない」という事実を知らないからである。果たして、このような商品の企画を行うアパレルのどれくらいが、「現状のドライクリーニングでは、汗などの水溶性ヨゴレを安全且つ十分に除去することは困難である」という事実を知っているのであろうか。

 *クリーニング業界では、「ドライクリーニングで汗などの水溶性ヨゴレをすっきり落とすドライソープ(あるいは助剤)」というものが出回っているが、有効な水分管理方法を確立しないままでこのような洗剤などを使用することは、ひじょうに危険であり(収縮や色の問題、風合い変化が発生する可能性がある)、その水溶性汚れ除去の効果については、はなはだ疑問が残る。
 →何を以て汗などの水溶性ヨゴレが除去できていると言うのか、あまりにも「基準が曖昧すぎる」のではないか


 また、今回の再現テストの結果から、水洗後のタンブラー乾燥による収縮が非常に大きいことから、特にこのような商品の場合は、水洗後は必ず自然乾燥を行うのが原則と言える。

(仕上げについての補足)
 仕上げ工程での過度なスチームと熱は、ポリウレタン弾性糸に大きな影響(収縮や脆化)を与えることは事実である。このような商品の仕上げは、ズボンプレス機などの高温高圧スチーム処理は絶対に避けるべきで、「乾熱アイロン(生地を水スプレイなどで湿らせて、電熱アイロンや電蒸アイロンのスチームを出さない方法)」を使用すべきである。特にこのケースのようなシボ立ちが発生した場合、アイロンからスチームを出して仕上げてもきれいにシボを消すことが出来ない。スチームを出さずに、スプレイによる湿りを乾かしながら生地をセットするように仕上げる必要がある。